哀しきヒットマン捜査の先に当局が見据える大物組長逮捕と分裂解消
殺人Uber
ヤクザファンのメンタルはプロレスや格闘技のファンのそれと近い。暴力の権化に自己を投影し、あたかも自分が戦ったかのような気持ちになることでカタルシスを得る。
かつては暴力団記事が実話誌のドル箱で、「ヤクザファン」も一定数存在したが、これは遠い昔の話。大多数の健全な市民にとっては蛇蝎のごときに嫌悪すべき対象で、それゆえ未知の世界。ということで、前回の『哀しきヒットマン逮捕で浮上した六代目山口組の分裂解消への道筋』では基礎編として日本最大の広域組織・六代目山口組が分裂するまでを書いた。
論理的に考えれば、2015年8月から来年は10年という節目に向けて、六代目山口組は是が非でも分裂を終結させたいことは間違いない。そのために巡ってきた「奇貨」こそが、2024年2月の絆會・金澤成樹若頭の逮捕である。
今回の金澤若頭の逮捕容疑は2020年に長野のラーメン店で起こした殺人未遂事件。だが、逃走中の2022年1月には、差し入れ用のケーキを片手に水戸市内の暴力団事務所に侵入。中にいた暴力団幹部を銃撃して殺害した疑いがあるとして、茨城県警が殺人の疑いで逮捕状を取っている。
防犯カメラの犯人の容姿が余りにも酷似していることから、2023年4月に起こった神戸市長田区のラーメン店店主で暴力団組長射殺事件の犯人の疑いもあるのだ。
事件直前の映像
ラーメン、ケーキ、ラーメンと事件全てに「食べ物」が関係する「殺人Uber」と化した金澤若頭。だが、当局が一連の事件捜査の先に視野に入れているのは「2013年の行方不明事件」だ。
「黒い金と黒い不動産取引」によって構成される複雑な人間関係の中、高名な金貸しが憎悪を暴力によって晴らそうとした。犯行チャートの中には2人の大物組長がいて、逮捕されれば分裂は一気に解消となる。
終息に向けて情報、暴力、司法権力がせめぎ合う。まるでマフィア映画のごとき地下社会の暗闘劇をすべて書こう。まずは金澤若頭が哀しき「殺人Uber」になるまでを整理して行きたい。